粘菌の行動原理から新しいコンピューターの原理を開発
ファンタジーやRPGでおなじみのスライム。かわいい姿で登場することもありますが、もともとはどろどろとした不定形の姿で、身体にからみついてくるおそろしいモンスターなのです。スライムは現実に存在する、粘菌という生物がモデルになっています。粘菌は単細胞生物でありながら、迷路の中の餌と餌との最短距離をつなぐことができたり、嫌いな刺激を記憶することができたりと、まるで知性を持っているかのようなふるまいをする不思議な生物です。今回、粘菌の動きを参考に、既存のものとは全く異なる機構のコンピューターの原理が、理化学研究所などの共同研究グループによって開発されました。
現在のコンピューターは、セールスマンが多くの顧客を訪問する最短ルートを決めるような問題を解くとき、すべてのルートでかかる時間を計算し、比べるという方法をとります。この方法は確実に最短なルートを探せますが、顧客数が増え、ルート数が増大したとき、計算に膨大な時間がかかってしまうという問題があります。一方、粘菌が迷路を解くときは、ある程度ラフに、あたかも場当たり的に適したルートを決めていきます。この方法は必ずしもベストのルートを導けるとは限りませんが、「速く」「ある程度正確な」答えを導くことができます。研究チームはこの粘菌の行動原理に注目しました。ナノレベルの世界では、電子を一点に閉じ込めた状態である量子ドットが近接して並べられたとき、ドット間でエネルギー移動が起こります。そのとき、エネルギーの行き先のドットは確率的にラフに決定されます。研究チームはこれが粘菌の行動原理に似ていることに着目し、粘菌を模倣した情報処理が量子ドットで再現できるかを検証しました。その結果、実際のデバイスとして応用できることが分かったのです。この新しい機構のコンピューターが完成すれば、災害時の避難経路など、状況がどんどん変わっていくが、素早い判断が求められるような局面での意志決定に力を発揮すると考えられます。
粘菌と量子力学という全く異なった分野の研究者が知恵を結集して、新しいコンピューターを生み出すなんて、まるでSF映画のような話ですね。未来のコンピューターは今とはまるで違っているのかも知れません。
(2013年8月20日に教育応援先生向けに配信されたサイエンスブリッジニュースです)
参考 http://www.riken.jp/pr/press/2013/20130809_1/
記者のコメント:粘菌がどのようにして知性を持っているのかは、まだ完全にはわかっていません。「粘菌飼育生活」で、粘菌の知性のナゾに挑んでみてはどうでしょうか?(飯野)
[table id=1 /]