世界で初めて、有機物の超伝導トランジスタを開発
みなさんはトランジスタという言葉をご存知ですか?ラジオ好きな人は聞いたことがあるかもしれません。これは電気抵抗を利用して、電気の流れをコントロールするための装置です。普段は電流を通しませんが、電圧をかけることで電流が流れるようになる電子的なスイッチとして使われています。従来、ゲルマニウムやシリコンを材料とすることが多いのですが、近年ではディスプレイなどの大画面装置での用途が求められ、簡単に塗り広げることができることが求められています。そこで、有機物を材料としたトランジスタの開発が世界中で進められています。しかし、有機トランジスタはスイッチがONのときでも、電流が小さいことが大きな課題です。今回、自然科学研究機構分子科学研究所などの合同研究グループは、この課題を解決に導く、世界で初めて超伝導を利用した有機トランジスタの開発に成功しました。
超伝導とは導線の電気抵抗がゼロになる特別な状態です。豆電球が光ったり、電熱線ヒーターが熱を発したりするのは電気抵抗があるからですが、電気を運ぶことが目的の場合、電気抵抗があると距離に応じて電気が損失してしまいます。しかし、超伝導物質により、回路全体の抵抗が完全にゼロになると、いったん電流を流すと損失が起こらず永久に電流が流れることになります。さらに、超伝導物質でコイルを作れば超強力な電磁石を作ることができ、実際にリニアモーターカーや医療用MRIなどに利用されています。今回、研究グループは、超伝導性の有機トランジスタの材料の候補として、κ-Brという有機物で実験を行いました。そして、電圧の変化と電気抵抗の関係を調べたところ、電圧が9Vのところで電気抵抗が急激に落ちることがわかったのです。これは9Vで超伝導状態に切り替わったことを示しています。
有機物が超伝導状態になるというだけでも驚きですが、それが電圧の変化だけで切り替えることができて、あたかも半導体のように使うことができるなんて、「超」驚きですね。超伝導の不思議な性質を活かした、超伝導モーター、超伝導送電線、超伝導電池などの研究も行われているので、未来が「超」楽しみです。
(2013年8月28日に教育応援先生向けに配信されたサイエンスブリッジニュースです)
参考http://www.jst.go.jp/pr/announce/20130823/index.html
記者のコメント:超伝導状態は発見当時(1911年)従来の物理学では説明不可能で、基本的な原理が分かるまでに50年もの歳月が必要でした。あきらめず探究し続けることが大切なのですね。(飯野)
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